鍵 7 (完)
その次の春、わたしはアサンドと結婚した。彼はあの坂の家を膨大な蔵書の大大半ごと売り払い、石造りの小さな家を手に入れた。新しい家は丘の半ばに建っていたから、代筆を頼みに来る人が徒歩で、時には小さな馬車で、白い坂を上って来るのがよく見えた。
わたしはいくらか読み書きができるようになった。処分してもまだまだ多い夫の本の埃を払うのは、特に好きな家事のひとつだ。眼についた本を手に取り、最初の数ページを娘に読み聞かせてやり、一緒に続きを考える。娘は学校が好きで成績もよく、自分で作った簡単なお話を書いてわたしに見せてくれる。
ある春の昼下がり、夫の部屋で古い小さな鍵を見つけた。虹色を帯びた金属でつくられた、玩具のように単純な形の小さな鍵だ。わたしはふざけて鍵を取り、ありもしない鍵穴に差して回すふりをした。
開けたドアの向こうはもちろん、十年以上住み続けてすっかり馴染んだリビングだった。花の飾られた窓を開くと、跳ねるように歩く娘の手を引いて、以前より少し陽に焼けた夫が丘を上ってくるところだった。
FIN
Kohana S Iwana
2024/06/09~2024/07/18